広島地方裁判所 事件番号不詳〔2〕 判決
北九州市八幡区黒崎町一丁目九番一号
朴源美こと
原告
関富子
右訴訟代理人弁護士
秋山光明
同
岡田俊男
広島市大手町四丁目一番七号
被告
広島東税務署長
綿重三郎
広島市上八丁堀六番三〇号
被告
広島国税局長
小林政雄
右被告両名指定代理人
検事
村重慶一
法務事務官
滝本嶺男
大蔵事務官
吉富正輝
同
常本一三
同
高木茂
同
田原広
同
広光喜久蔵
右当事者間の行政処分(更正決定並びに審査裁定)取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者双方の申立て)
一、原告
1 被告広島東税務署長が、原告に対し、昭和四〇年三月一一日付の「昭和三六年分所得税の更正通知書および加算税の賦課決定通知書」をもって、所得税額を更生し、加算税を賦課した処分は、これを取り消す。
2 被告広島国税局長が、原告に対し、昭和四〇年九月二九日、原告の審査請求を棄却した裁決は、これを取り消す。
3 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
二、被告ら
主文同旨
(請求の原因)
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり陳述した。
一、被告広島東税務署長は、原告の昭和三六年分所得税につき、昭和四〇年三月一一日付をもって、総所得金額を一、六八二、三三七円と(再)更正したうえ、増加納付税額一四四、一九〇円、過少申告加算税七、二〇〇円を賦課する旨決定した。
同被告が右更正決定をした理由は、要するに、原告が訴外金尾甲文に対して別紙目録(一)の土地・建物を譲渡したことによって、原告に譲渡所得があると認定したためである。
二、しかしながら、右更正決定は次の理由により違法であるから取り消されるべきである。
(一) 原告は、金尾甲文に対して別紙目録(一)の物件を譲渡すると同時に、同人から同目録(二)の物件を譲り受けたが、右譲渡、譲り受けの時期は昭和三五年三月であるから、本件譲渡所得は昭和三五年分所得であって昭和三六年分所得ではない。しかるに、これを昭和三六年分所得としてした右更正決定は違法である。
(二) 譲渡所得金額の計算には、総収入金額から譲渡資産の取得価額を控除すべきところ、被告広島東税務署長は別紙目録(一)の宅地の取得価額を二、二三六、〇〇〇円、建物の取得価額を一八九、〇七四円とそれぞれ認定してそれらを控除しているが、右宅地の取得価額は二七〇万円で、右建物のそれは二五万円であるから、同被告のした右認定額は不当に低く失当である。
(三) 租税特別措置法によれば、居住用財産の買換え(第三五条)、もしくは居住用財産の交換(第三八条)の場合には、課税特例が認められているが、原告が譲渡、譲り受けをした両物件とも約四〇坪の居住用部分を含んでいるから、この場合にも右いずれかの課税特例の適用がある。しかるに、この課税特例を適用しなかった前記処分は違法である。
被告広島国税局長は裁決の中で、居住用財産の「買換え」の課税特例の適用を受けるには譲渡した年分の確定申告書にその適用を受ける旨の所定の事項を記載して申告しなければならないのに、原告はその申告をしていないのでその適用ができないと述べているが、原告がかかる申告をしなかったのは事実であるが、それは原告が税法規に無知で、現実に金銭の授受がなく所得がないのに申告しなければ課税されるとは思いも及ばなかったためで悪意はない。このように所得がない場合でも申告しなければ課税されるという税法規は、国民に不当な義務を負わせるもので、憲法第二九条に違反して無効である。
三、原告が被告広島国税局長に対して、前記更正決定処分につき審査請求をしたところ、同被告は昭和四〇年九月二九日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
ところが、前記更正決定では原告と金尾甲文との別紙目録(一)、(二)の不動産の譲渡、譲り受けは交換ではないとし、一方右裁決では右は交換であるが租税特別措置法第三八条の適用ができないとの理由で棄却し、更正決定と裁決とで理由を異にするので、原告は裁決についても取消しを求めるものである。
(被告の答弁及び主張)
被告ら指定代理人は、請求原因に対する被告の答弁及び主張として、次のとおり陳述した。
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、請求原因第二項の(一)のうち原告が訴外金尾甲文に対し別紙目録(一)の物件を譲渡し、同訴外人から同目録(二)の物件を譲り受けたことは認めるが、その余の事実は争う。
原告は本件資産の譲渡、譲り受けは昭和三五年中に行われたから、本件譲渡所得は昭和三五年分所得であると主張するが、その譲渡の月日を明確にしていない。しかし、土地登記簿及び建物登記簿の所有権移転登記の登記原因によれば「昭和三六年三月一〇日交換」となっているので、被告らはその日付をもって右譲渡(交換)の日としたものである。従って、その譲渡による所得は昭和三六年分所得である。
三、請求原因第二項の(二)のうち被告らが別紙目録(一)の宅地の取得価額を二、二三六、〇〇〇円、建物のそれを一八九、〇七四円とそれぞれ認定したことは認めるがその余の事実は否認する。
四、請求原因第二項の(三)について。
租税特別措置法によって、居住用財産の買換え(同法第三五条)として譲渡所得の課税特例を適用の受けようとする者は、同法第三五条第三項の定めるところにより、居住用財産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に、これらの規定の適用を受けようとする旨並びに譲渡した当該財産の譲渡価額及び取得した当該財産の取得価額等所定の事項を記載しなければ、その適用を受けられない。ところが、原告が昭和三七年三月一五日に被告広島東税務署長に提出した昭和三六年分所得税の確定申告書にはその記載がないから、右規定を適用しなかったのは当然である。
居住用財産の「買換え」による課税特例を受けるには、右のような申告を必要としているが、これはかかる課税特例を受けるかどうかは納税者の選択に任されているので申告制を採っているもので、右規定が憲法第二九条に違反しないことは明らかである。
次に、本件の場合、居住用財産の「交換」の課税特例を認めなかった理由は、要するに、右特例を受けるには、前記第三八条の第一項により、当該財産の交換により金銭その他当該居住用財産以外の財産の授受が行われなかったことを要件としているところ、本件譲渡物件は事業用財産等居住用財産以外の財産と一括交換されていて、その要件を満たしていないからである。
五、請求原因第三項について、被告広島国税局長が昭和四〇年九月二九日原告の審査請求を棄却する旨の裁決をしたこと、並びに原告主張のとおり更正決定及び裁決の理由が異なっていたことは認める。
しかし、更正決定と裁決の理由が異なっているとしても、これによって裁決固有の違法理由があるものとはいえない。従って、裁決固有の違法を主張しない原告の裁決取消しの訴えは、主張自体理由がない(行政事件訴訟法第一〇条第二項参照)。
(証拠)
一、原告訴訟代理人は、甲第一号証、第二、三号証の各一、二、第四、五号証を提出し、証人金尾甲文、安炳洙、渡辺美佐子、関東孝義の各証言、並びに原告本人関貴星の尋問の結果を援用し、乙号各証の成立をすべて認めると述べた。
二、被告ら指定代理人は、乙第一、二、三号証、第四号証の一、二、三、第五、六、七号証、第八号証の一ないし四、第九ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証を提出し、証人守屋速雄、福田宏、福岡英昭の各証言を援用し、甲第四号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立はすべて認めると述べた。
理由
(更正決定の取消しを求める訴について)
一、請求原因第一項の事実は当事者者間に争いがない。
そこで本件の争点である別紙目録(一)の土地・建物の譲渡による所得について以下順次検討する。
二、原告はまず、本件譲渡所得は昭和三五年分の所得であって昭和三六年分の所得ではないと主張する。
本件土地・建物(別紙目録(一)のそれ)の譲渡時期がいつであるかについては原告の主張においても明確でなく、またその確証もない。しかし、原告が金尾甲文に対し別紙目録(一)の物件を譲渡し、同人から同目録(二)の物件を譲り受けたことは当事者に争いがない(もっともその関係が交換であるか買換えであるかは必ずしも明らかでない)ところ、原告が金尾に譲渡した岡山市の本件土地・建物が金尾がスマートボール「山陽会館」の営業を始めたのが昭和三六年三月一〇日であること、一方、原告が金尾から譲り受けた広島市の別紙目録(二)の土地上の建物では金尾が昭和三六年六月八日までパチンコ店「有楽園」を営み、同日から原告の夫関貴星が同店の営業を始めたことは当裁判所に顕著な事実である。そして成立に争いのない乙第一、二、三号証、第四号証の一、二、三によれば原告が金尾に譲渡した本件土地・建物の移転登記は昭和三六年一〇月一七日で、その登記原因は「昭和三六年三月一〇日交換」となっていること、一方、関貴星が長男関勇名義で金尾から譲り受けた別紙目録(二)の土地の持分(三分の一)及び原告関富子(この登記簿上は当時の氏名朴源美)が登記名義人浜崎尚子から譲り受けた同土地の持分(三分の一)の各移転登記が昭和三六年五月一二日で、その登記原因が「昭和三六年五月一〇日売買」となっていることが認められる。
右のような事実関係のもとでは、本件譲渡財産たる土地・建物の移転登記原因の日をもって本件譲渡所得の帰属時期と認めるのが相当である。従って本件譲渡所得を昭和三六年分所得であるとした被告広島税務署長の処分は正当である。
なお、この点に関し、原告は、本件土地・建物の譲渡時期と別紙目録(二)の土地の取得時期とが同じであることを前提として、原告関富子(登記上・朴源美)が孫寿福から取得した右土地の持分(三分の一)の移転登記の日が昭和三五年三月一九日(登記原因同月一八日売買)であることをもって、本件譲渡所得の帰属時間が昭和三五年であることの論拠の一つとしてあげているが、孫寿福から取得した持分の取得時期と他の者から取得したその余の持分の取得時期ないしは本件譲渡の時期とがすべて同じであるというならば、たとえそれらの登記の日がそれぞれ異なっていたとしても登記原因の日までかえる理由は毫も存しないのに、それらの各登記原因の日がそれぞれ異なることからみると、孫寿福から取得した右土地の持分の取得時期を他の者から取得したその余の持分の取得時期ないしは本件譲渡の時期とが同じであるという原告の前記論拠の前提事実そのものが証拠上認め難いところであるから、孫寿福からの持分の移転登記の日が昭和三五年となっていることは前記判断の妨げとはならない。また、原告が昭和三五年分所得税を広島市内で申告したこと(甲第五号証)も前記認定の妨げにならない。けだし、原告が昭和三五年分所得税の申告を広島市内でしたのは、その申告当時即ち昭和三六年三月一五日に原告が広島市に在住していたからにほかならず、それ以上の意味がないからである。
されば本件譲渡所得を昭和三六年分所得とした被告広島東税務署長の処分は違法ではない。
三、次に、原告は本件譲渡にかかる土地・建物の取得価額について、被告広島東税務署長のした認定額は低すぎると主張する。
同被告が右のうち宅地の取得価額を二、二三六、〇〇〇円、建物の取得価額を一八九、〇七四円とそれぞれ認定したことは当事者に争いのないところであるが、右取得価額は成立に争いのない乙第四号証の一ないし四並びに証人福岡英昭の証言によれば、本件譲渡財産の所在地の税務署即ち岡山税務署が調査した結果に基づいて算定されたものであることが認められる。しかし、右認定にかかる取得価額が低きに失すると認めるに足る証拠は全くないから、被告広島東税務署長のした右取得価額の認定は不当とはいえない。
四、原告は更らに租税特別措置法による居住用財産の買換え(第三五条)もしくは交換(第三八条)の課税特例を適用しなかったことは違法であると主張する。
しかし、同法において居住用財産の買換えもしくは交換の場合に課税上優遇措置を講ずる趣旨は、立法当時の住宅事情に鑑み、住宅建設を促進させようとするにあるから、この立法趣旨から考えると、同法において居住用財産というには、譲渡に係る財産(土地建物)の主要部分が居住用であることを要し、これに反しその主要部分が店舗等居住用以外の目的に供せられる場合には同法の適用ができないものと解される。これを本件の場合についてみると、本件譲渡建物も原告が取得した土地上の建物もいずれも店舗兼居宅でその建物の中に若干居住用部分を含んでいるものの、その主要部分がパチンコないしはスマートボールの事業用遊戯施設であることは証拠上明らかであるから、本件譲渡財産及び譲り受け財産とも同法でいう居住用財産とはいえない。それゆえ、その余の点について判断を加えるまでもなく、それらの課税特例の規定を適用しなかった被告の措置は正当である。
五、以上のとおりで本件更正決定処分には違法がなく、この処分の取消しを求める原告の本訴請求は理由がない。
(裁決の取消しを求める訴について)
被告広島国税局長が昭和四〇年九月二九日原告の前記更正決定処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。
原告は更正決定の理由と裁決の理由が異なるので裁決の取消を求めると主張する。なるほど、原告が主張するとおり更正決定では別紙目録(一)の土地・建物と同目録(二)の土地の譲渡・譲り受けが交換ではないとし、一方裁決では右の交換であるが租税特別措置法第三八条の適用ができないという理由で棄却したことは当事者間に争いのない事実である。しかし、更正決定と裁決の理由が異なるだけでは裁決固有の取消し理由があるものとはいえないから、行政事件訴訟法第一〇条第二項により、原告の裁決取消しの訴えは主張自体失当というべきである。
(結語)
してみると更正決定処分及び裁決の取消しを求める原告の本件各訴えは、いずれも理由がないので棄却を免れない。よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 立川共生 裁判官 角田進)
目録(一)
岡山市西大寺町六一番地の五
一、宅地 一坪二合一勺
同 町六二番地
一、宅地 一九坪八合四勺
同 町同番地
家屋番号同町五八番の二
一、木造ルーフィング葺平家建店舗兼居宅
一二坪五合
冷房器 二台
以上
目録(二)
広島市大須賀町一〇八三番地
一、仮換地宅地八二坪四合三勺
持分 三分の一
旧地の表示
広島市松原町字四の割六四七番地
一、宅地 六二坪
同所 六四八番地
一、宅地 五七坪
同所 六四九番地
一、宅地 二〇坪
以上